本の感想

ミヒャエルエンデ『モモ』*登場人物の生き方と「時間」の哲学

児童文学ミヒャエル・エンデ作『モモ』は、昔から私の大すきな一冊です。有名な本なので、ご存じの方も多いはず。

「時間」とは何か。
児童文学なんですけど、これがとっても深いんです。

時間に追われて現代を生きる大人こそ、一度は読むべき本だと思います。『モモ』から考えさせられるいろいろなことについて、私なりに語ってみたいと思います。

※ネタバレにならないように気を付けますが、内容に触れる部分もありますのでご注意ください。

ミヒャエル・エンデ『モモ』

基本情報

発売日:2005年6月
著者: ミヒャエル・エンデ
出版社:岩波少年文庫
サイズ:文庫
ページ数:409p

円形劇場の廃墟に住み着いた少女モモと、時間どろぼうの物語です。

人間たちに「時間」を倹約させることで、時間を奪う「時間どろぼう」。時間を倹約すればするほど、人々からはゆとりある生活が奪われていきます。彼らの姿を、現代の私達の姿に重ねあわせて読めることが、この本の味わい深いところなんです。

人々にとって「時間」とは

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時間をはかるにはカレンダーや時計がありますが、はかってみたところであまり意味はありません。というのは、だれでも知っているとおり、その時間にどんなことがあったかによって、わずか一時間でも永遠の長さに感じられることもあれば、ほんの一瞬と思えることもあるからです。
なぜなら時間とは、生きるということ、そのものだからです。そして人のいのちは心を住みかとしているからです。

引用:ミヒャエルエンデ『モモ』

「時間」とは、いったい何なのでしょうか。

1日は、24時間。
1時間は、60分。
1分は、60秒。
1秒は、今この瞬間に過ぎていますよね。

頭では理解していても、結局時間って何なのか、言われてみるとこれほど捉えどころないものはないなと思います。

時間を大切にしなさいって、大人は子どもによく言ったりするわけですけど、時間を節約して得られるものは何かと考えると、実際のところよく分かりません。

1分1秒を無駄にせず、一生懸命働けば、その分お金を稼ぐことはできる。10分でも長く勉強すれば、受験に合格したり賢くなったりもできる。時間をかければかけるほど、なんでも上手になれる。

どれだけ時間を費やしたかによって、自分の中で何かが向上するのは確かかもしれません。でも大切なのは、その時間を自分で操っているかどうかにあります。

自分自身の時間の使い方を他人に強制されることは、ただ時間というものを犠牲にして、心の豊かさまで失っていくということなんじゃないでしょうか。

自分の時間が失われると、人間は病んでしまう。育児が辛かったりするのも、仕事が忙しすぎたらストレスがたまるのも、結局は自分の時間を、自分で操れてないからなんだと思います。

反対に、自分が一緒にいたいと思える誰かと費やした時間は、その人との関わりを深めると思うし、自分のやりたいことをしてる時間は、他人からどんなに無駄な時間に見えても幸せだったりする。

こうして私がブログを書いていることも、他人から見たら無駄な事に思えるかもしれないけど、自分の中では大事な時間だったりする。以前仕事に出ていた頃のことを思うと、今でも震えるくらい辛いのは、自分のせいでも環境のせいでもなくて、私が自分の時間を自分で操ってなかったからだと思うんです。

時間の使い方って、その人の人生そのものなんですね。

「時計というのはね、人間ひとりひとりの胸のなかにあるものを、きわめて不完全ながらもまねて象ったものなのだ。光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのとおなじに、人間には時間を感じとるために心というものがある。そして、もしその心が時間を感じとらないようなときには、その時間はないもおなじだ。」

このフレーズは心に響きます。

この本を読むまでは、「時間を感じとるために心がある」なんて、全く考えたことはありませんでした。けれど、意識をすればその意味は、私にとってとても大切な考え方になっています。

ちなみに、我が家のリビングには、時計がありません。この時代に時計のない生活なんて不可能だけれど、せめておうちのリビングだけでも、心にゆとりをもてる空間にしたい。そんな風に感じ、あえて時計は置かないことにしています。

切り口は違いますが、こちらの記事にもリビングの時計の話を書いてます。

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登場人物から学ぶ生き方

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風変わりな少女モモ

モモは、円形劇場にたった一人で住んでいる、少し風変わりな少女です。身元も不明で家族もいません。けれど、モモは町の人たちからの人気者。

それはなぜかと言うと、「人の話がきけるから」なんです。どんなに悩んでいる人も、モモに話を聞いてもらったら、元気になって帰っていきます。モモは何も言わなくても、黙って話を聞くだけで、人の心を溶かします。

モモの友達はたくさんいますが、その中でも特に仲が良いのがベッポ爺さんとジジ。この二人は多分、モモだから仲良くなれる二人なんだろうと思います。

人の話をきくことが、私はとても苦手です。その反対に、夫は話をきける人なので、本当そこは尊敬するのですが、じっと黙って人の話をきけるということは才能だと思うんです。

コミュニケーションにおいて、話を聞くということはものすごく大事なことだと分かっていても、つい自分の話を挟んだり、聞いてるようで聞いてなかったりしてしまうんですよね。

話をきくことって本当に難しい。

「話をきく」能力をもつモモの姿は、自分と人との関わり方を立ち止まって考えさせられます。カウンセラーのようなモモの存在で、人々が救われていく姿に触れて、きくことの大切さを改めて感じます。

ベッポ爺さん

「いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん、わかるかな?つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけ、つぎのひと掃きのことだけを考えるんだ。いつもただつぎのことだけをな」「するとたのしくなってくる。これがだいじなんだな、たのしければ、仕事がうまくはかどる。こういうふうにやらにゃあだめなんだ。」

道路の掃除が仕事のベッポ爺さん。無口で、お話している内容はいつも独り言のように聞こえます。そんなベッポ爺さんの話をモモが一生懸命に聞くんです。

何でもコツコツ毎日続けることは、難しい事です。きっとそのコツコツ頑張ったことだけが、成功へとつながっていくんだと思います。そして楽しくなっていくんだと思います。

人間生きていれば、できるだけ楽をしたいと考えがちだし、狡賢い人が得をすることも多々あります。しかしながら、傍から見たら馬鹿正直に見えるベッポ爺さんの存在は、私たちが普段、忘れかけている純粋なものの考え方を思い出させてくれます。

継続は力なり。

ベッポ爺さんは、日々コツコツと続けることの大切さを説いています。

観光ガイドのジジ

「詩だって物語だって、つくり話だろ?それに学者の話だって作り話かもしれないし。だいたい、あんたはその時代生きてた?生きてないだろう、だったら本当かもしれないじゃないか。」

モモのもう一人の親友ジジ。

観光ガイドのジジは、本当とは思えないような「お話」や「途方もない夢」を語ります。皆がバカにしたり、文句を言ったりするような話も、モモは楽しく最後まで聞きます。

ジジは夢を語ること、空想することの素晴らしさを説いているようにも思えます。

多くの大人は、子どもの頃のように夢を見なくなっていきます。現実を捉えることは大切なことですが、それによって自分の幅を狭めたり、生きることが息苦しくなっていく大人は多いですよね。ジジは純粋に、夢を見ることの大切さを教えてくれます。

最後に☆

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語り始めるとキリがないほど、名言が飛び出す『モモ』。読めば読むほど深くて、味わいのある一冊です。

モモとベッポとジジ。性格は全く違うけれど、共通しているのは生き方が純粋であること。彼らの姿を読んで感じる温かい気持ちを忘れないでいたいものです。

「時間とは、生きるということ、そのもの」です。
現代の時間どろぼうに自分の時間を奪われていませんか?

1日24時間を、自分なりにいかに操るか、楽しんで生きていくかを問いかけてくれる一冊です。ぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか。