西加奈子さんの本が大好きです。『うつくしい人』を読みました。ああ、西加奈子さんだなあと冒頭から感じる作品でした。
鬱傾向にある暗くて重たい主人公の内面がすごくリアルで、これはまさに覚えのある感情だなぁと、数年前の自分を思い出したので、過去の自分のことを少し語ってみたいと思います。
※本の内容に触れる部分・ネタバレ要素もありますのでご注意ください。
発売日:2009年2月
著者: 西加奈子
出版社:幻冬舎
サイズ:単行本
ページ数:226ページ
他人の目を気にして、びくびくと生きている百合は、引きこもりの姉との関係や、過剰な自意識に悩まされ続けます。一人で出かけた離島のホテルで出会った2人の男の人との関わりから、少しずつ回復していくお話。
前半、百合が繰り返す「重い」という一言が表す気持ちが、私にはよく分かりました。
他人の目を気にしなければ、自分の居場所を作れない自分。周りからの評価や、周りとの関係性、そんなことばかりを気にしていた頃を生々しく思い出します。私も以前の職場にいたころ、似たような状態にありました。
今となっては、何にそこまで苦しめられていたのか、正直よく分からない。でも、渦中にいるときは、そんな実態のないものに苦しめられるからこそ、精神的にとてもつらいんですよね。
おそらく他人の目を必要以上に気にしていたのは、私も百合と同じく、「過剰な自意識」であったように思います。「自分はこうしたい」ではなく、「自分はもっとこうでなければいけない」という謎のプレッシャーに常に怯えていました。行動に意思が伴わず、周りから期待される姿ばかりを妄想し、振り回され、疲れ、泣くことしかできない自分。
私も百合と同じように、お嬢様的な育ちの中で、知らず知らずのうちに身についてしまっている甘えた生き方を恨んだし、自分の周りのすべてに苛立つのに、悪いのは全部自分だと感じる。状況を打開する方法が分からなくて、とにかく苦しかった。
未だにあの頃のことを思い出すと胸が締め付けられるような気がするのは、自分自身、あの頃の自分が大嫌いだからなんだと思います。
正直、読んでてめっちゃ苦しかったですね。
他の方の感想などを読んでいても、前半に関しては、「いらっとした」とか「辟易した」とか、「ヒロインがめんどくさい」という方が多いのも分かります。
けれど、なんとも言えないこの覚えのある感情は、読めば読むほど共感できて、ああ、こういう袋小路って社会には溢れてるのかもしれないと感じました。
百合が、旅先で出会う2人の男性。ちょっと風変わりなこの2人の登場で、だんだんお話が温かくなっていきます。
傍から見れば、変わった人たちなんだけれども、ただただ真っ直ぐに生きている人。そういう存在に百合が癒されていく様子が、安心できます。
誰も自分のことなんか気にしてない。自分は自分のやりたいようにやればいい。当たり前のことなんだけど、これに気付けるようになるのってすごい時間かかるんですよね。
「自分探しの旅」という表現はあまり好きじゃないんですが、病んでいる心には、広大な自然や、自分のことを周りが全く知らない環境というのは安心できるものです。
「ただそこにある」無機質な佇まいが、胸を打った。「そこにある」だけのことが、どれほど難しいか、私はよく知っている。
『うつくしい人』p131引用
「ただそこにある」ためには、自分を取り戻さないといけない。
百合は二人との出会いが、自分の心をほぐすきっかけになったわけですけど、誰もが旅に出たからといって回復するとは限らない。でも、苦しい時間や環境や場所から、とりあえず距離を置くことは大事なんだと思います。
植物にはその植物に合った土壌や、環境が必要なように、人間にだって自分が生きやすい環境を選ぶことは必要なはずです。
私も仕事を退職して、住んでいる場所も変わってやっと、自分を取り戻せたような気がしています。あのままあの職場にこだわって、しがみついて乗り越えることは、自分を強くしたかもしれないけれど、その分私はずっと苦しんでいたと思います。1日1日がとてつもなく長いままだったと思います。
思い切って仕事を辞めたこと、自分で選んでこの場所にいることを、今は心からよかったと思っています。
海も変わるのだ。こんなに立派な海が。では、私が変わることくらい、環境によって自分を見失ってしまうことくらい、起こりうることなのではないか。私は誰かの美しい人だ。私が誰かを、美しいと思っている限り。
『うつくしい人』P224引用
この一節に尽きると思います。
ちょっと疲れてる人こそ、読んでほしい。いや、疲れてた時期があった人こそ、心に響くものがあるのではないかと思います。私が現在進行形でしんどい時に読んでたら、生々しすぎて「うあぁあぁぁあ!」って途中で発狂して読めなくなってたかもw
ちなみに、作中に登場する瀬戸内海のホテルは、小豆島の「リゾートホテルオリビアン」という場所がモデルだそうです☆行ってみたい!
生々しい鬱感情の描写にどっぷり浸かりたい方には、おすすめの一冊です。少しずつ乗り越えていく姿にも、ほっと安心できますよ。
ちなみに、こちらの『きいろいゾウ』は、また全然違う雰囲気。ほわっとあったかい世界観が素敵です。
よかったらぜひ読んでみてくださいね☆