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リリーフランキー『東京タワー』をオカンになる今、再読した感想

リリーフランキー『東京タワー オカンとボクと、時々オトン』が発売されたのは、2005年。本屋大賞に選ばれて話題になり、ドラマ化・映画化されたことでも有名です。

当時私も気になって購入して読んだのですが、こないだ久しぶりに読み返してみると、あの頃には特にそれほど響かなかった母親というものの存在、家族というもののあり方について、改めて考えさせられました。

数日後に出産を控えた今の自分の視点から、感じたことを語ってみたいと思います。

 

『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』


東京タワーオカンとボクと、時々、オトン

 

発売日:2005年6月29日
著者:リリー・フランキー
出版社:扶桑社
ページ数:522ページ

 

リリーフランキーの実体験をもとに描かれたお話。

もう10年以上前の作品なんですね。

 

ボクが子どもの頃から、大人になるまでの成長の過程や心の動き、母親との生活、別居中の父親との関わりが、細かく書かれています。

 

家族というもの、母親という存在、若者の思い、なんていうかいろんな感情が生々しく、ところどころ入ってくる「語り」に、本当にそうだよなと頷きながら身に積まされることがたくさん。

今、出産を控え、母親になろうとしている私が読んで、共感した部分について、ちょっぴり語ってみたいと思います。

 

本文を引用しているので、ネタバレ注意です!

 

子どもは大人が思っている以上に賢い

言葉にする能力を持たないだけで、子供はその状況や空気を正確に読み取る感覚に長けている。そして、自分がこれから、どう振る舞うべきかという演技力も持っている。それは、弱い生き物が身を守るために備えている本能だ。

引用:リリーフランキー『東京タワー』P31

 

これ、友達の子どもなんかを見てるとよく思うんですが、1歳くらいのまだ言葉が上手く喋れない子でも、大人の言ってることって意外に分かってるんですよね。

「これ、ゴミ箱に捨てて来て」と言って渡すと捨てに行ってくれたり、「ナイナイ(お片付け)しよう!」と言ったらおもちゃを持って動き出したり。

自ら「喋る」ことは難しくても、ちゃんと分かってる。

 

子どもって、言葉の意味は分からなくても、大人の表情や目線、空気、自分に対する好意だとか、そういったものを大人以上に本当に敏感に感じ取っていると思うんです。

リリーさんはこれを「弱い生き物が身を守るために備えている本能」と言っていて、なるほどなぁと思いました。

 

両親の仲が悪いのに子どもの前では取り繕っていたり、「子どものために離婚はしない」などという話を聞くことがありますが、それって多分子どもは、気付いてて気づかないフリをしてるだけだと思うんですよね。

小さな子どもに対しても、「どうせこんなこと言っても分かんないよね」という親の勝手な諦めや、「いちいち説明するの面倒だから適当に教えとこう」という誤魔化しも、子どもはお見通しだと思うんですよ。

 

これから親になる私は、子どもを1人の人間として向き合うことを忘れずにいたいです。

 

「行儀よくする」ことの意味

行儀とは自分のための世間体ではなく、料理なら、料理を作ってくれた人に対する敬意を持つマナーである。

引用:リリーフランキー『東京タワー』P54

 

オカンは、ボクの箸の持ち方がヘンでも一度も注意したことはなかったけれど、よそのお宅でご飯をごちそうになったとき、「きゅうりのキューちゃん」から箸をつけたことは叱った…というエピソード。

自分が恥をかくのはいいけれど、他人に恥をかかせないために行儀よくすべきであるという子育て。

なるほどなぁ…と思いました。

 

自分を思い返してみると「行儀よくしなさい」と言われると、私はよくムカついてました。大人になってからも、気取って自分を取り繕うことには、いまだにちょっと抵抗がある。

それって多分、「行儀」というものを自分や親をよく見せるための世間体としか捕えていなかったからなのかなぁと。

「ありのままの自分でいたい」「自分のやりたいようにやればいい」「思ったことは何でも主張すればいい」。自分(あるいは親・身内)をカッコよく見せるためだけにお行儀よくして、窮屈な思いをするくらいなら、そんなお行儀はいらない。

 

そう思っていたけれど。

 

当たり前だけれど、自分のやりたいようにすることで、相手に対して何か失礼や迷惑になるようなことは、やっぱりアカン。

そこは、子育ての上でも忘れてはいけない視点かなぁと思うのです。

周りの目や世間体なんて気にせず、自分で物事は決められる子どもに育ってほしい。だけれど、相手に対して失礼にならないよう、最低限の行儀は身に着けてほしい。そして、自分自身もそうありたい。

 

そのバランスが、難しいけれど大事だと思うのです。

 

「家族」という存在は培うもの

たった一度、数秒の射精で、親子関係は未来永劫に約束されるが、「家族」とは生活という息苦しい土壌の上で、時間を掛け、努力を重ね、時には自らを滅して培うものである。

引用:リリーフランキー『東京タワー』P30

 

「家族」というものへの思いは、年齢とともに変化するものなのかな…と最近思います。

 

子どもの頃は、いるのが当たり前だった「家族」。家族の一員であることが幸せだったし、うちは兄弟がいないけれど、温かい大人たちに囲まれ、甘やかされ、生活するのはなかなか心地よい感覚でした。

 

ですが、思春期に入るにつれて、だんだんその場所にずっといることは息苦しくなっていきました。ちょっとした大人たちの干渉が煩わしいあの感覚。

「お風呂くらい好きな時間に入らせてよ!」とか、本当しょうもないことなんですけどね。

 

大学生になって一人暮らしを始めてからは、自由な生活をことごとく謳歌。「世の中にこんな世界があったのか」と驚くことばかりで、親元を離れる淋しさよりも、1人で生活することの自由が楽しすぎる日々でした。

 

18歳で一人暮らしを始めてから、25歳で結婚するまでの7年間、私は「家族」という存在から少し離れて生活をしました。

1人でも経済的になんとか生きていける力を付けて、自由に生きていた独身時代。

ここで一旦「家族」という束縛から逃れられたことで、よくも悪くも、いろんな意味で大人になれたと思っています。

 

周りの煩わしい束縛は全くなくて、自分の好きなことに時間とお金を使える生活。でも、そんな生活を続けていると、今度は不思議と「家族」というものが恋しくなった。

故郷から離れて自分一人で生活していることへの違和感。誰かと一緒に生きていきたいという思いが、少しずつ膨らんでいきました。

 

そして、結婚することで私にとってまた「家族」ができた。うさぎを飼い始めてから、2人と1匹になり、あと数日後?には子どもも産まれて、さらに家族が増える我が家。

 

家族が増えるごとに、リリーさんの言葉を借りると、『生活という息苦しい土壌の上で、時間を掛け、努力を重ね、時には自らを滅して』しなければならないことも増えていきます。

 

もう独身の頃のような、自由な生活はできない。

 

けれど、今度は家族という厄介だけれど温かい1つの集団を、維持するために努力してみるのも楽しいかもしれないと、今は思っています。

 

親が子を想うということ

世の中に様々な想いがあっても、親が子を想うこと以上の想いはない。
求めているうちは、それが分からない。ただひたすら、与える立場になってみて、やっとわかってくる。かつて、親が自分に何を思っていたのか。その日のことを知り、今の日に、自分がそのようになろうと思う。
その時、人は確かなるなにかを手に入れるのかもしれない。

引用:リリーフランキー『東京タワー』P128

 

これから親になる私は、まだ自分の親が、私に対してどんな思いを持っていたのか、本当の意味では実感できていないのかもしれません。

これから子育てをしていく上で、父親の思い、母親の思いをリアルに感じ取ることができるのだろうかとふと思う。

 

「与える立場」になって初めて分かることがあるなら、経験してみたい。

子育てをしながら、自分も成長していけたらいいなと思います。

 

まとめ

この本を読んだのは2度目ですが、1度目とは違った気付きがあった気がします。

 

学生の頃読んだ『東京タワー』は、どちらかというと、『ボク』の視点でお話を読みました。上京したボクと自分を重ねて読むと共感するところがとてもあった。

でも、今回はちょっとだけ『オカン』の視点になって読めた気がします。

そして、家族という存在について、改めて考えさせられました。

 

やっぱり、魅力的な本は何度読んでも心に響きますね。

とっくに読んだことあるよ!という人も多いと思うのですが、再読してみると新たな発見があるかもしれません。

 

 

ユキコ

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