本の感想

田舎に住みたい夫婦におすすめ*西加奈子『きいろいゾウ』

西加奈子さんの小説にハマっています。『サラバ』や『漁港の肉子ちゃん』など、話題の作品ももちろんですが、他の作品もいろんな味があって面白いです。

読書は心の栄養!ちょっと読んでみるかというきっかけになれば。

 

西加奈子『きいろいゾウ』


※できるだけネタバレにならないように気を付けますが、内容に触れる部分もありますので、ご注意ください!

基本情報

発売日:2008年3月
著者: 西加奈子
出版社:小学館
サイズ:文庫
ページ数:488p

『きいろいゾウ』ってどんなお話?

長編です。田舎の暮らしに憧れる私には、ぴったりの一冊でした。動物と話せる子どもみたいな「ツマ」と、ちょっと謎めいた物書き「ムコさん」。二人の夫婦愛を描いた作品です。
このお話は、前半と後半でお話の流れやスピード感がぐんと変わります。前半は、のほほんとしていて穏やかですが、後半は、激しい流れに急展開。

ずんずん読み進められるのは後半だけれど、前半の穏やかな部分も心がほっこりする内容ですよ。

田舎の生活と世界観

bsPPS_ushigaerusan

カエルの大合唱だとか、毎日やりくりしながらの食卓。当たり前の日常なんだけれど、生活の1つ1つにものすごく大きな意味があるということ。都会にいたら気付かないで素通りしてるようなこと。人一人、生き物一匹、植物一つ一つが生きていることを実感できます。

都会には都会のよさがあるのも事実。田舎出身の私にとって、都会がどれほどに便利な場所かということは身に染みて分かっています。作中には、「東京に住んでるとき、人にぶつからない日はなかった」という一節があります。都会は人が溢れていて、賑やかな一方で、どんなにたくさんの人がいても、隣の人間には無関心。周りのみんなが自分に興味をもっていないということが、時に安心感を覚えることだってあります。

でも私自身、東京に住んでいると時々、田舎の田園風景や山や海なんかが恋しくなります。それはきっと、田舎の生命力溢れる生き物たちに触れたいと思うからなのかなと感じました。

この本には、あぁ田舎の生活いいなって思える魅力が溢れています。

幸せな夫婦愛のかたちとは

bsPAK853_namiuchigiwadekoibito14171628

「ツマがそこにいること、人生のように、日常のように、
そこにただいてくれるだけで、
安心して眠りにつけるのだということ、
堂々と、幸せだと笑っていられるということ。
どうしてそんな簡単な、だけど途方もなく尊いことに、気付けなかったのか」

引用:『きいろいゾウ』

この本のテーマでもある夫婦愛。この本を読んだ私は、多分ちょうどツマと同じくらいの年齢で、なんというか、ちょっと不思議ちゃんなツマなんだけれど、心の中に渦巻く感情は共感できるものがありました。

穏やかな日常は幸せです。けれど幸せなときほど、ちょっとした不穏なものに敏感になる。その不穏な心の動きは、一度陥ってしまったら簡単には抜け出せない落とし穴です。お話の後半は、相手に対する疑いの気持ちから抜け出せないときの恐怖が、生々しく描かれます。

結婚という道を選んだ自分。これまでの自分の人生にそれなりのけじめをつけて今がある。自らの選択の中で築き上げてきた生活と夫婦関係が、壊れることは恐ろしい。でも、そんな思いと向き合い乗り越えることで、夫婦愛は深まっていくのだと思います。ツマとムコさんの関係を通して、浮かび上がってくる夫婦のありかたを考えさせられます。

心に残るひとこと

bsPPG_kiiroikonpe-to

「ツマさん言ったでしょ、大人になると、恥ずかしいことがたくさん起こる、て。今まではそれが嫌だったけど、僕ね、それを受け入れていこうと思うんだ。恥ずかしい事って、かっこ悪いこととは全然違うんだね。僕、知らなかった。」

引用:「きいろいゾウ」

 

不登校だった「大地くん」という子が呟いた一言です。私はこの言葉がとても胸に響きました。

恥ずかしいことはしたくない、恥ずかしい思いをするくらいなら逃げ出したいという感情は、きっと誰もが持っていると思います。けれど、恥ずかしいこと=かっこ悪いこととは限らない。人生は恥ずかしいことの繰り返し。思いっきり恥ずかしいことを堂々とやる人間。そこに自分の意志や人に訴えかける力があれば、どんなことでも大きな意味があるんだということを教えてくれます。

恥ずかしい思いをしたくないからといって、はじめから何もやらないことは、何の意味もない。それなら、どんなに恥ずかしい思いをしてでも、一歩踏み出すことの方がよっぽど大切なんです。失敗を恐れず前向きに生きることは、簡単なことではないけれど、いつも忘れずにいたいなと思います。

まとめ☆

『きいろいゾウ』は、ファンタジーと現実が入り混じったような不思議な世界観のお話です。

物語の世界をふんわり捉えるか、現実的に捉えるか、読み方はきっと人それぞれ。どんな捉え方であれ、なんとも心地よい空気感が漂います。好き嫌いは分かれるかもしれませんが、好きな人にはどっぷり入り込めると思いますよ。

田舎に住みたい夫婦にもおすすめの一冊です!よかったらぜひ一度読んでみてくださいね☆